夢の保育園 〜五感を刺激して、歓喜をよび起こす園に。〜

赤ちゃんを知る。そして母になる。

第三回母学会議 赤ちゃんにやさしい街づくり

「夢の保育園 〜五感を刺激して、歓喜をよび起こす園に。〜 」

寄稿
葛西康仁
(アップリカ育児研究所 代表取締役社長)

小林登先生の著書『母学』で、「赤ちゃんは『母子相互作用』ですくすく育ちます。」とあります。

「母子相互作用」というのは、人類が進化の過程で獲得した多彩な「心と体のプログラム」を作動させて行う、「視覚」「聴覚」「嗅覚」「味覚」「触覚」など「五感」を介したお母さんと赤ちゃんの「感覚器のコミュニケーショ ン」のことです。「心と体のプログラム」とは、遺伝子や脳にあらかじめ書き込まれた基本的なものです。そして、「感覚器のコミュニケーション」とは、タッチング、スキンシップ、吸啜、語りかけなどの感性の情報「やさしさ」で五感を刺激することです。そうすると、赤ちゃんは感動し、「生きる喜びいっぱい」になります。脳は感覚器で受け取ったさまざまな情報を処理して、人間生活を行うための心理的な状態や行動を作り出し、体をはたらかせます。

その「プログラム」が作動し機能するために「母子相互作用」が必要不可欠です。心と体のプログラムは、脳の心と体の基本的なプログラムを組み合わせた複雑なものです。その中心的な過程は、ニューロンのネットワーク・システムを構成するニューロンとニューロンを結ぶシナプスの形成と除去です。使わないニューロンは消失することになり、そのニューロンのネットワーク・システムとそのプログラムも消えてしまうのです。

多様な心のプログラムのはたらきを高度化する総司令 塔の役目を果たす前頭前野は、愛、やさしさ、信仰、注 意力、学習力、創造力、意欲・情動などの心のプログラ ムをはたらかせる特別な存在です。この前頭前野のシナ プスの数は、シカゴ大学のピーター・R・ハッテンロッ カー教授の研究から、5か月ごろから急速に増加して、 3、4歳までニューロンの数は増加し、5歳ぐらいにピー クになり、その後下降に転じますが10歳ぐらいまでは、 まだ多く、15歳ぐらいで成人と同じぐらいの数に減少 することがわかりました。

つまり、乳幼児期のシナプスの数は最大に達します。 乳幼児のシナプスの多い時期に、感性の情報「やさしさ」「スキンシップ」「自然の中で虫や動物と遊ぶ」など五感 を刺激することで「生きる喜び一杯」になることが何よ りも重要です。知性は成人になっても取り返しがつきま すが、臨界期がある「視覚」「聴覚」「嗅覚」「味覚」「触 覚」の五感の感覚の獲得は臨界期が過ぎてからでは取り 返しがつきません。乳幼児期には「感性の情報」が大切 なのです。

また、子どもに「感動」をよびおこす感性の情報「や さしさ」とは何でしょうか。やさしさとは、視覚や聴覚 だけではなく、触覚・味覚・嗅覚の五感を介して感じる ものです。五感を刺激するやさしさとは、タッチング、 抱っこ、おんぶなどのスキンシップ、授乳、読み聞かせ などあたたかい心、思いやりのある心で赤ちゃんと接す ることです。特にやさしい「まなざし」が重要です。そ うすれば、子どもたちは生命に感動して「生きる喜びいっ ぱい」になり、心と体がすくすく発育します。子どもた ちがやさしく育てられない、あるいは、「生きる喜びいっ ぱい」の機会をもてないと、子どもの体の成長や、心の 発達に影響します。

かわいがられない、タッチング豊かに育てられていな い子どもは、朝昼晩などの生活リズムが乱れ、生体機能 のリズムが狂います。そして、食欲や食物の消化・吸収 の低下、成長ホルモンの分泌不全がおこると考えられて います。また、知能の発達にとっても「やさしさ」が重 要です。「考える心のプログラム」や「学習の心のプログラム」がよく働くようになります。子どもが育つとい うことは、栄養だけではなく、関わる大人の心の温かさ、 思いやり、五感を刺激する感性の情報「やさしさ」が大 きく影響します。

ブラゼルトン博士が監修された『育児室からの亡霊』(ロ ビン・カー=モース、メレディス・S・ワイリー著 監 訳 浅野富三・庄司修也 毎日新聞社)に、「乳幼児期 はたいへん複雑な時期」とあります。「扱い方によって 将来有望な大人になったり、頭打ちになったり、芽が摘 まれたりする。考える力や感じる力、他人との関係を築 く能力のもとが養われるのは、胎児としての9か月から 生後2歳までの間である。」と、あります。つまり子ど もたちの暴力の根源は2年9か月の育児環境にあると警 鐘を鳴らし、アメリカ社会で育児環境と子どもの暴力の 関係が大きな話題となりました。

以上のことから乳幼児期がいかに大切であるかがわかります。保育園の時期というのは、上記のように大事な 時期にあたります。理想の「夢の保育園」とは、保育士 の方お一人お一人が、子どもにとって大事な時期である ことを知り、五感を刺激する感性の情報「やさしさ」で 子どもたちに接し、「生きる喜びいっぱい」であふれた 場所であると私は考えます。