母学トークアインシュタインの逆オメガ3

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アインシュタインの逆オメガ〜脳の進化から教育を考える〜

講演
小泉英明
(株式会社日立製作所名誉フェロー公益社団法人日本工学アカデミー上級副会長)

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ピアニストもそうなんです。ピアニストの場合は、バイオリンほどじゃないんですけれども、小さいときからやると、小さいときからピアノをやらなかった人との差、これは脳の方法で差のところを示しているんですけれども、特にピアノの場合も左手のほうに差がかなり出てきます。

大事なことは、ピアノを弾いたりするというのは、チンパンジーにショパンやリストを弾かせようと思っても無理ですよね。人間特有なんです。しかもそれをよく考えていくと、人間というのは、昔は石器を作っていた。これはチンパンジーと最初は同じぐらいなんですけれども、その後は、人間はどんどん進歩して非常に複雑な石器も作れるようになってきたわけです。

最近、分かり始めてきているのは、石器を作ったというのは、ただ石器を作る才能だけが進化の中でだんだん育っていったというよりも、それをきっかけにして、新しいもっと高度な脳の機能につながっていった可能性があるということが最近、分かってきました。

その証拠に、それが楽器の演奏と関係するんですが、楽器を小さいときからやって育ってくる脳の一部というのは、他の方法では育ってこないんです。新しい脳で、しかも少し複合的な脳であると。人間特有の複合的な脳が、ごく一部分なんですけれども、育ってきていると。これがだんだん分かってきました。だから、ある意味、特殊な進化をしているわけです。

こういうような進化がとても大事 なのは、さっきはチンパンジーとのお話もちょっとだけ いたしましたけれども、チンパンジーは基本的には木の 上で生活しているわけです。おサルさんもそうです。で すから、おサルさんは枝をぎゅっと握ること、チンパン ジーの場合もぎゅっと握るという能力はすごく大事です。 握りが下手だと、サルも木から落ちてしまうわけです。

ところが、人間というのは樹上で生活したところから、 木から下りてきたわけです。そうすると、木につかまる ためのぎゅっと握り締めるだけではなくて、そこで石器 を作ったり、細かな指先の動作がとても重要になってき た。細かな指先の動作をやっているうちに、また新しい 神経系が進化してきたんです。これはパワーグリップと も言いますけれども、握り締める場合です。この場合はぎゅっと木刀を握り締めていますけれども、木から落ちないためにもしっかりと握ることが大事。

でも、ボールを投げる。ボールを投げるとなると、例えば高度なカーブだとか、フォークとか、そういうボールを投げるときには指がものすごくデリケートではないといけないわけです。このデリケートな、つまむような指の運動というのは人間しかできません。そして、新しいそのための神経系というのは、はっきり違うものが進化してきていると。これが今、私たち人間です。

こういう進化というのは赤ちゃんで見てみると分かるんですけれども、赤ちゃんでもそうですけれども、胎児のときにはもっとはっきりしています。例えば、今お話ししたように木から下りてきて、そうすると地面を歩かなくてはいけないですから、直立で立って歩くためには、親指がかなりしっかりと踏ん張れないと前へ出ることができないわけです。

ですから、親指の働きというのは、保育や育児でもすごく大事なんです。基本です。多分、私たちの前向きに何かやろうという意欲も、足の親指の働きとかなり関係しているというふうにわれわれは踏んでいます。じゃあ、進化の前を見るためには、ちょうど胎児の頃を見てみると分かりやすいんですけれども、この後もお話ししますけれども、人間というのは進化の過程をおなかの中で、大急ぎで繰り返して生まれてくると。これが昔は俗説と言われたんですが、今はかなり正しい部分があるということが分かってきています。