母学トークアインシュタインの逆オメガ4

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アインシュタインの逆オメガ〜脳の進化から教育を考える〜

講演
小泉英明
(株式会社日立製作所名誉フェロー 公益社団法人日本工学アカデミー上級副会長)

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胎児で比べると、こちらがサルの胎児の足の指です。人間の胎児の足の指、こんなふうに似ているんです。ところが、大人になってくると人間の指というのは、親指が非常にしっかりしてきます。それから、これはサルの大型のものですけれども、かなり大きくなっても親指が特殊ということはありません。人間だけが特殊。こういうようなのが進化の中でいろいろ起きているわけです。

さらに大事なのが神経というのは、 最初は裸電線みたいなもんなんですが、神経線維の周り に絶縁体がだんだんと巻き付いてきて、神経の伝達側道、 信号を送る速度が速くなってきて、かなりまともな情報 処理ができるようになるんです。

絶縁されるようになる時期というのが胎児のときから、 それから最後は大学生ぐらいまでまだ続いていると。こ れもだんだんと分かってきています。ですから、昔の進 化を繰り返しているのは胎児のときだけではなくて、大 人になる辺りまで繰り返しているということです。

こういうような研究をしたのがヘッケルという人なんですけれども、次、お願いします。ダーウィンと同じ人なんですが、この前お話ししたときに、ヘッケルはデザインの元祖じゃないかと、私は個人的に思っているとお話ししたんですが、日本画の先生があまり感心した顔をしてくださらなかったんで、新しく絵を増やしました。

これを見たら、これは生物学者が描いた絵です。彼の絵には情念があるんです。こういう生物学の絵は初めてだと、私は思っています。これは余計なんですが、次、お願いいたします。普通の絵だとこういう絵を彼は描いていたんですが、画才が彼にとっては災いの元になりました。

これも彼がさっと描いた絵なんですけれども、初期の頃の絵なんですけれども、胎児のとき、特に胚から胎児にかけて、ちょうど勾玉(まがたま) のような時期というのが全ての動物にあるんです。後でお魚になったり、カメさんになったり、ウサギになったり、ブタになったり、最後の辺りはこういうふうにだんだん変化してくるわけです。おなかの中で変化する。ところが、最初のところは勾玉と同じような形。だから、勾玉というのが多分あるんだと思うんです。

次、お願いします。ここは時間の関係で少し飛ばしま すけれども、ヘッケルという人は非常に才能のある人で こういうことをやったんですけれども、これは聖書の『創 世記』という神様が人間をつくったときのお話と違って きちゃうわけです。本当は全部一緒なんだけれども、そこからだんだんおなかの中で人間は人間になるし、他の動物は動物になったし、それで教会から大変な迫害を受けました。これは今でも実際に続いているんです。原理主義的な教会ではこういう考えを禁止しています。

次、お願いします。そういうことも最近になって、ヘッ ケルが言っていたことはやはり正しいということが分か り始めました。次、お願いします。ヘッケルの与えた影 響というのは表に出てこないんですが、調べていくとフ ロイトも大きな影響を受けているし、哲学者のユングも そうですし、特にジャン・ピアジェです。ピアジェというのが教育とか、心理学の元祖みたいにも言われていますけれども、ピアジェというのは学生の頃は古生物学者だったんです。フランスでそちらの化石の研究をやっていて、それから、心理学者になったんですから、一番ヘッケル辺りを理解していたはずなんですけれども、ヘッケル自身が間違っていると、生物学者がみんな言うもんですから表に出せなかった。

ですから、私は今、これを明確に表に出して、教育を考えるときに進化というものをしっかりとベースに置くと、そういう考え方が必要だというふうなことを言い始めております。

こういうような化石については、 またいつかゆっくりとご説明いたしますけれども、進化教育学という Evolutionary Pedagogy というふうに名前を付けたんですが、本屋さんがそんな名前を付けると誰も買ってくれませんと。私の意思に反して、『アインシュタインの逆オメガ、脳の進化から教育を変える』ということで、私はEvolutionary Pedagogy がどうしても必要なんですと言い張りましたら、じゃあ、デザイン的にちょっと載せましょうということで、ここの後ろに載せてくれました。

でも、私はそれにはへこたれずに、日本で駄目なら海外で出版しちゃおうということで、実際にシュプリンガーのほうで比較的、最近なんですけれども、バチカンの会議の中で議論した内容というのが本 になりましたけれども、その中の1章を当ててくださって原理的なところは既に発表しました。次、お願いします。こういう分野というのは今、いろいろと研究が急激に進み始めていまして、これはオーストラリアでやりました『ネイチャー』が新しい雑誌を出す。『ネイチャー』は皆さま聞かれたことがあると思いますけれども、『ネイチャー』という名前のように自然 科学の本なんです。

『ネイチャー』とか、『サイエンス』というのはそうい うふうに言いますけれども、彼が編集長なんですけれど も、新しい雑誌として『サイエンス』というのを発表 して出版されています。ですから、自然しかやらなかった出版社が教育という、 これは自然とちょっと違うと今まで思われていた人文科 学の領域、あるいは社会学の領域だった、そこに自然の 雑誌社が入ってきた。つまり、これからは自然科学として教育を考えることができると。それの証しだと考えて います。

ちょうど残りの10分で肝心のお話をさせていただきますけれども、夢の保育園。たまた ま中国の大連のスマートシティーのプログラムがありまして、ここでお手伝いするように中国から言われまして、幾つか私のささやかなアドバイスをさせていただいたんですが、そのときに保育についても話が出てきました。素晴らしい理想的なスマートシティーをつくるという、大変な大きな大連市のプロジェクトです。

びっくりしたんですけれども、中国の人たちが設計しているんじゃないんです。アメリカとか、ヨーロッパの大変有名な建築家やデザイナーがみんな設計している。これはその中にある子どもの遊び場です。それから、野外にもこういう遊び場がある。ここから子どもたちが育まれるとは私には思えない。

そうすると、保育園の目的で考えますと、子どもたちというのは先ほどもちょっとお話ししたように、これは沖縄の保育園なんですが、ここでも保育園の方が10園ぐらいまとめて呼んでくださったんですが、植物が好きで、子どもは泥が好きです。泥まみれになりたい。動物も好きだし、水も好きで、水と泥が好きだから泥まみれになっちゃうわけです。

いつもスマートシティーというのは人間が抜けやすいんです。私は都市で一番大事なのは、どうやって子育てをして、そして、本当に温かい心を持った子どもたちが大きくなって、仕事をバリバリやって充実感を感じて、健やかにあとは老いるという。それが都市の一番基本になるコンセプトだと私は思っています。ですから、スマートシティーでいうようなエネルギーとか、環境とか、それはあくまでもおまけであって、本質は人間がそこでどういうふうに一生を過ごすかという、ここが私は原点だと思って、最近は手段が取り上げられるケースが非常に多くて、手段ではなくて、われわれが 大事にすべきは目的なわけです。