母学トーク 日本の幼児教育と保育について

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日本の幼児教育と保育について 〜子育てから子育ち〈自分育ち〉支援へ〜

講演
大戸美也子
(武蔵野大学名誉教授)

「日本の幼児の教育と保育」と言う演題から、多くの皆さまは幼稚園や保育所に関する話しを連想されたので はないでしょうか?日本の乳幼児の教育と保育のために利用できる施設は、家庭の他に20種近く有りまして、極めて多様で複雑です。この短い時間でそれらを紹介するのは到底無理ですので、本日は、まずはじめに最近乳 幼児教育・保育施設として仲間入りした『認証こども園』の概要をお知らせし、次いで既存の幼稚園・保育園の利用状況の推移からこれからの子どもの養育環境がどのように変わっていくかを考え、最後に「よりよい乳幼児の教育・保育のあり方」について具体的にお伝えしたいと計画しております。

2015年4月、『子ども・子育て新制度』がスタートし、幼稚園と保育園を一体化した施設『認証こども園』が誕生しました。この新施設を管轄している内閣府のホームページには、「認定こども園は幼稚園と保育所の両方の良さを併せ持つ施設」と説明し、この施設が日本の乳 幼児の教育と保育を君臨しているようなイメージで描かれています。平成28年現在の調べで、全国に 4、001園が開園したと報告されていますが、既存の幼稚園と保育園とを併せて34、800園あることに比べれば、まだ11%のシェアですから、まだ少数派と段階にあるといっていいのではないでしょうか?ただ、「認証子ども園」設立に熱心な地域(大阪府、兵庫県、北海道など)とそうではない地域(三重県、沖縄県)との「地域差」があることも指摘しておきます。

この新施設で乳幼児の教育と保育に当たる人は『保育教員』という職名が付けられ、幼稚園教員免許状と保育士の資格の二つ併有が義務づけられています。ただ、3年以上の職歴のある保育士資格のみの職員に対しては、「幼稚園免許の要件を緩和して取得できる特例措置」が取られ、8科目の講義を受講することで幼稚園免許が与 えられ、教員・保育者養成に携わる人々を戸惑わせているところです。「認証こども園」の開園時間は標準11時 間ですので、1クラスの運営に複数の保育教員がローテーションを 組んで当たるのが常道となります。更に、「 認証こども園」の「指導要領」が改訂され、明年4月から実施というのですから、いろいろなシフトで働く「保 育教員」が新しい指導要領を共通理解して、チームを組んで「幼稚園と保育所の両方の良さ」を発揮していくの は容易ではありません。「認証保育園」は、課題満載で目下進行中という所です。

次に、既存の幼稚園・保育園の利用状況について概観します。2006年と2016年を比較しますと、10年間で家庭外の施設利用児が1割近く多くなり、なかでも1・2歳児は17.7%(28.9%⇒46.6%)、3歳児が14.2%(78.9%⇒93.1%)と大きく伸びています。特に、1・2 歳児の施設利用増は大きく半数を超える日も近いと想定 されています。また、施設別では幼稚園利用児が3.5% 減少しているのに比べ、保育園利用児が5.5%増えてい ます。更に、幼稚園と保育所の年齢別の利用状況をみていきますと、幼稚園は1978年をピークに利用 児が暫時減少する中、3歳児増が目立だっていましたが、2016年からこの年齢の利用児においても減少し始め ています。一方、保育所利用児は60年代から80年代に急増し、その後の少子化時代も数値は安定し、1・0歳児の利用児の利用増により順調に利用児総数 を持ち上げていることがわかります。こうした傾向を総括しますと、家庭以外の養育施設の利用児が年々増え、また利用児の年齢も低零下の傾向にあるといえます。日本の乳幼児の教育と保育の場は、家庭と施設の双方で展開する実態が現実化しています。ですから、「親機能」をどのように考え、分担していくかについて考え直すときがきていると云えます。このようなときに、「親機能」を考える一つの切り口として「母学」を話題 にすることは意義深いこととおもわれます。それでは、子どもは家庭であれ施設であれ、どのように育つのが望 ましいかを、一つの事例をもとに考えてみたいと思います。

我が家の近くに、子どもたちの大好きな公園があります。大きな樹木や灌木、そして庭石のたくさんある旧家のあと地を利用して、住民が相談して作った公園です。4階建の建物を超える高さの大きなケヤキと栃の木を中央に残し、100本を超える樹木を伐採して広場を作り芝を敷き、広場の周辺に灌木と庭石を寄せ、80種物もの花をそれらの周辺に植えました。公園の中央に立つ大木の根を守るように丸ベンチも作られ、日陰で一休みできる場所も設けられました。遊具は全く設置されていませんが、随所におかれている大小の庭石に灌木、そして栃 の実とたくさん花たちが子どもたちの遊び相手です。

ある日の様子を写真で紹介しましょう。四季折々たくさんの花が咲きますが、春は特に賑やかです。子どもたちはこれらの花に近づいて見ることは勿論、摘むこともOKです。どんなにきれいな花が咲いていても、地面の中の見えない物の探索に忙しい子どももいます。また、木に咲いている花を間近に見たい子どもいます。子どもたちは、この公園で「自ら感じ・考え・判断して・振る舞う」ことができるのです。公園の入り口近くの大きな庭石の辺りで、数人の子どもたちがにぎやかに何 かしている様子が伺えましたので、 後でその庭石を見に行きました。何とこのような「アート」が残っていました。子どもたちは、大人の特別の指示を得なくとも 「自ら感じ・ 考え・判断して一つの世界を創りあげる」ことが出来た事例です。

どのような施設であれ、子どもたちのために大人が第一になすべきことは、子どもたち一人一人がじっくりと感じ・考える時間なり空間なりを用意して、自ら何かを創り出すことを応援すること、そえを共通の課題にして、充実した子ども時代を実現する場であって欲しいと願います。