第一回母学会議報告

第一回母学会議

2016年10月21日(金)丸ビールホール

マザープロジェクト

おまもりうた:「誕生」

脳科学から見た芸術と倫理

基調講演

小泉英明

パネルディスカッション

「母と子の芸術」

“あたたかい心が育つよう 子ども達に希望と感謝の祈りを”

おぼえていますか
初めてわが子を抱いた日のことを
ただひたすら 小さな生命の幸せを願った

親としての あの素直な心を
いつも いつまでも 忘れずにいてください。

あなたにとって
どんなにつらく 悲しいことがあった日でも、
たとえ離れていても、
あなたの やさしい思いは
きっと子どもたちの心に届くはずです。

一日に一度 たった一秒でもいいのです
子どもたちが 心のあたたかい人に育つよう
希望と感謝の祈りをささげてください。
そしていつまでも つづけてあげてください
その祈りは あなたの心まで
幸せの光で満たしてくれます。

o

漫画家
手塚 治虫

b

日本小児科医会初代会長
内藤 寿七郎

c

アップリカ育児研究所理事長
葛西 健蔵

第一回母学会議

2016年10月21日(金)丸ビールホール

母なる地球と母なる生命のために ―

― 科学と芸術の協働

プロデューサー

伊東 順二

私たちという存在はどのように生まれどのような地平に向かうのか? その問いは誰もが人生のどこかで持つものであろう。 例えば、マグマが凝固し地球を形作りそこに様々な生命が宿り美しい自然を作った ように、奇跡としか思えない生命の創造と成長の過程を科学が解明しようとするとす れば生命とそれを支える心の軌跡を内側から辿ろうとするのが芸術ではないだろうか。 とすれば、科学と芸術はあざなえる一本の縄のように目的を共有すべきものでなくて はならない。

現在私が東京藝術大学で行っている講義の表題は「社会基盤としての芸術」というものである。その意味は、従来、芸術の社会的な立場の見方として取られがちであった趣味的かつ特殊で孤立的な分野であるという芸術の見方を捨てて、芸術を社会の必要不可欠な基盤として見なければならない、というメッセージを将来の芸術家や文化マネジメントの現場に立つ学生たちに伝えるためである。そのために講義は実際に美術館や文化施設で私が得た経験や各界の識者の知見を元に進めているが、小林先生の「母学」はその見方を科学的に証明していただくものであり、また芸術という表現手 法が、人間が人間であることを証明するためにあるという事実を再確認させていただ く貴重な提言をなさっていただくものだと深く感銘した次第である。

なぜ、芸術が、例えば水源の確保や食料の調達という生命維持のための要素のよう に、人間社会を構築する上での不可欠な基盤要素となり得るか、という理由はなぜ生 きるかということに通じると思う。禅の言葉に「日々是好日」というものがある。雨 の日も晴れた日も同じように好き日と思い、過ごしていくことが幸せに生きることで あるという意味である。そのように生きるためには毎日の様々な環境の変化を受容し ポジティブに捉えていく感性の多様性が必要になる。それは心の柔軟性とでも呼ぶべ きものなのだろう。小林登先生の「母学」は胎児の段階から赤ちゃんたちを「胎児の プログラム」、「新生児のプログラム」、「母のプログラム」と段階的にそれぞれの過程 の中で健全な心身の成長を促すための心と体のスイッチの入れ方を解説する。そこに 本書の真髄があると言っても過言ではない。

つまり、単なる胎教論や育児論と違って 目に見えない母子の生理的相互作用を科学的に論理的に説明しながら、生きるとは、もしくは心の在り方とはという哲学そして感動という生命のモチベーションの言及に まで達しているということである。そしてそれは芸術の存在意義をも問うものだと思 う。なぜなら母子の目に見えない相互作用、それは心の伝達というものであり受け継 いだものを自身の中で生涯熟成し、多くの人が、時間が経つにつれ忘れかけている時 に芸術は目に見える形でもう一度思い出させてくれるもの、その稀有な作業、そして メディアが芸術であり芸術家だからだと思うからである。とすれば、社会が赤ちゃん の時に授かった感動する感受性を基盤として健全な社会が作られて行くためには芸術 は社会にとって欠くべからざる要素でなければならない。

そしてその芸術の世界でもしばしば忘れられがちなのだが、芸術という分野はルネッサンスの時代に、宇宙とは何か、人間とは何かということを解明するためにレオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロなど多くの芸術家たちがその叡智のかぎりを賭けてギリシャ時代のプラトンやアリストテレスらの哲学を基本概念として創出した科学的方法論である。そして、その二つの時代は戦争と対立に満ちていたことを忘れてはならない。彼らがそのような時代にあって、人間のあるべき未来を提示しようとした背景も彼らの優れた母や父たちの貢献かもしれない。

何れにしても、衝突に満ちている困難な私たちの時代に人間の心の原点を探る母学を深めて、広く伝えることは科学と芸術の関係を愛情という至高の化学でもう一度教えてくれるものであると信じているし、生命の根本原理を母という立場に換えて見据えることは文明の多様性受容にまつわる問題を乗り越えることを私たちに可能にするための大きな手段であると思っている。