母学トーク 子どもの〈自己形成を育む〉保育 1

子どもの〈自己形成を育む〉保育

講演
大戸美也子
(東京女子医科大学名誉教授)

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大戸でございます。只今は、富山に来て驚いたというお話を利かせて頂きましたが、私もまた、驚いたことがいろいろあります。一つは、今会場に本日の演題が映像で大きく紹介されていますが、文字のバックには美しい立山連峰が撮されているのがお分かりのことでしょう。実は、此の写真は3年前、富山を訪れたときに私自身が撮った写真なのです。今日は、その時と同じように晴れた空に美しいくっきりと連なる立山連山に再会でき、驚きました。もう一つ、富山が「子育て支援」に大変熱心な所と知ったことです。富山市を始め、県あげて各地で「子育て支援」に熱心に取り組んでおられることが、そのメニューの豊かさや広報の工夫のあり方のどれをとっても、私の居住地武蔵野市と比べ、遙かに優れていることに驚きました。

実は、私は昨日、射水市のある保育園を訪ねました。その園の方が、私の関わってきました大学の社会人講座の夏・冬の集中講義に泊まりがけで参加されてました。東京で勉強したことを、富山へ戻られてどのように保育に生かしておられるか、ずーっと関心を持って、いつか 彼女の園を訪ねてみたいと思い続けてきました。このた び『第二回母学会議@富山』に参加する機会を得て、この願いが叶ったのです。とても、立派な保育を実践して おられ、本日の演題とも関係がありますので、少しその 園の活動を紹介させて頂きたく存じます。

この保育園は、小学校の跡地に建てられたそうで、園の前に広々とした原っぱ広がっている2階建ての建物でした。隣が公民館という大変恵まれた立地にあります。大きな玄関を入ると、一階には未満児(0〜2才)の保 育室が並び、二階は3歳児の保育室と4・5歳児混成のクラスがホールを保育室に使っていました。残る保育室は『音楽の部屋』と『絵や制作活動の部屋』に割り当てられ、いつでも表現活動ができるようになっていました。 この園の弾く保育方針は、 頂いた園のパンフレットに『子ども主体の保育を目指して』と題して次のように書かれていました。

「子どもは豊かに伸びていく
可能性を秘めています。
毎日の生活の中でさまざまなことを
体験する子どもたちは
自然や友達と関わり
たくさんの遊びを通して感性が磨かれ
創造性が養われていくのです
〇〇保育園では、そんな子どもたちの
個々のリズムを尊重しながら
“ いろんなものと出会える保育 ” を行なっています」

そして、どのような出会いの機会を作っているかと云えば、毎日のお散歩のときには「四季折々の美しい自然 とふれあい」に心を使っている他、春には「タケノコ掘り」、秋には「ぶどう狩り」に「いも掘り」、そして節分 が終わると「みそ作り」まで行なっているのです。地域の方々の協力を得て、地域の自然の恵みに子どもたちが 直接触れ、味わう経験を重ねていることを知りました。本日のお話しのために『子どもの人格形成』に国を挙げ て取り組んでいるドイツの活動例を用意してきたのですが、何と富山ではすでに子どもたちが自然の恵みに直接 触れ、味わう経験を既に立派に実践されておられ、とても驚きました!

異年齢の子どもたちの混成クラスの編成、特別活動の確保、地域の自然を取り入れた保育活動 ・・・ 等々は、どこの地域でも実践していることのようにみえますが、 実際に年間通してこれら全部を実践している園は、私の知 る限り全国的に見ても非常に少数ではないかと思います。こんなに熱心に「子どもの発達支援」に力を尽くしておられるのに、当人は『恥ずかしい』という言葉を連発されていて ・・・。富山は、美しい立山連峰のもと「子ども・子育て支援」のプログラムを豊かに開発され、東京の大学にまで勉強に来て『子ども主体の保育』を誠実に実行しておられる ・・・ それなのに終始「いやいや、恥ずかしいです」と語る謙虚な保育者。『子育てするなら富山』のキャッチフレーズの似合う県という印象を深めました。

さて、そろそろ本題に移ります。私の演目は『子どもの人格形成を育む保育』で、ドイツはこの主題を国の方針に定めしっかり実践している国です。数年前、私はドイツ第三の商業都市フランクフルトを訪れ、『教育』と『保 育』に『人格形成(Bildung)』を加えた三本柱ですすめている保育現場で実際に見た事例をいくつか紹介しますので、日本保育では必ずしも強調されていない『子どもの人格形成』の進め方にヒントが得られますなら大変嬉しく存じます。