『母学』小林 登が母に伝えたいこと2

赤ちゃんを知る。そして母になる。

第三回母学会議 赤ちゃんにやさしい街づくり

「母学」小林 登が母に伝えたいこと。

講演
葛西康仁
(アップリカ育児研究所 クリエイティブディレクター)

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理性と感性の情報について

小林先生は、人間社会には「理性の情報」と「感性の情報」があるとおっしゃいます。知性、言葉はやはり「理性の情報」であって、「感性 の情報」というのがやさしさに代表されるものです。赤 ちゃん、子どもたちを「感性の情報」で、5歳ぐらいま ではゆっくり育ててくださいということが『母学』に書 かれております。

プルーストの一節について

小説、『失われた時を求めて』というプルーストの有 名な本ですが、紅茶にマドレーヌを浸して口に入れた瞬 間に、その味と匂いが遠い昔の記憶を結び付けるという 一節があります。要は、僕たちは記憶がよみがえるのは、 ほとんど「理性の情報」ではなくて「感性の情報」です。 特に言葉ではなく、やさしさによって覚醒するというよ うなことも、この本の中には書かれてあります。

「joie de vivreジョワ・ド・ヴィーヴル」について

先生とお話していると「joie de vivreジョワ・ド・ヴィー ヴル」という言葉が何度も出てきます。フランス語で「生 きる喜びいっぱい」という意味です。フランス政府から 勲章を授与された、伊東先生も大好きな言葉だと思いま すけれども、「joie de vivreジョワ・ド・ヴィーヴル」 ということを子どもたちにどうやって植え付けるのかと いうと、それは「やさしさ」です。五感の刺激を介して、 赤ちゃんの「生きる喜び」を満たすというようなことを 先生は「joie de vivre ジョワ・ド・ヴィーヴル」と言わ れています。ぜひこの言葉を皆さんに覚えていただきた いと思います。「やさしさ」が「生きる喜び」を引き出 します。

『Ghosts Form The Nursery』というアメリカで大変有 名な『育児室からの亡霊』という本が1997年に出まし た。この本は “Tracing the Roots of Violence”「暴力の根 源をめぐって」というテーマで、ハーバード大学ご出身 の弁護士、メレディス・S・ワイリーさんとブラゼルト ンセミナーのコンサルタントでもある著名な家庭セラピ スト、ロビン・カー・モースさんの著書です。日本では 毎日新聞社より朝野富三さんと庄司修也さんの監訳で出 版されております。

極端な例かもしれませんが、妊娠中の9か月と2歳ま での33か月間の生活環境によって、非行少年になった ジェフリー君のノンフィクションです。何百人もの非行少年のデータから、33か月の間に虐待、無視などを社会、 親がしていると、子どもが大きくなって、それがトラウ マとなり暴力的になる。社会に大きな警鐘を鳴らしたの です。暴力の芽は妊娠から出産後の33か月に育つのです。

『育児室からの亡霊』について

『育児室からの亡霊』はニューヨークタイムズが「重 圧的な質感と抜群の説得力」と書評を出し、全米の親た ち、政治家が乳幼児期の環境がどれだけ重要であるかの 警鐘に耳を傾けたのです。この本が、如何に大事かとい うことを私も伝えていきたいと思います。暴力が子宮の 中で芽生え、就学前までに子どもの脳内で確立される科 学的証拠を示しています。非常に説得力のある本です。

『育児室からの亡霊』監修者について

監修者のDr.T.Berry Braselton(ドクター・ティ−・ベリー・ブラゼルトン)は、小林先生と大親友で、日米 で赤ちゃんの心と体の発育について共同研究をされています。ブラゼルトンさんも子どもの強烈な感情の調整不能は幼児期の体験につながるとおっしゃっています。要は、心を制御できないんです。そういうもので、ある種の暴力感が出てくるということは事実であろうと。次のスライドをお願いします。

『母学』まとめ

小林先生はこういうふうにまとめられました。乳幼児 期はシナプスの形成が活発で、環境の影響を受けやす いと。さっきの光ですよね。言葉を持たない赤ちゃん は、五感の感覚器からの刺激を受けないと、その刺激 に関する神経細胞のネットワークシステムが作れない。 つまり、消滅していくわけです。子ネコが視覚を失っ たように、その期間8か月までに光を受けたり色を見せ たりしないと消滅していきます。また、ここに母子相 互作用の必要性があると先生は書かれています。五感 を刺激する芸術が必要であることは言うまでもないと。 人間だけが持っている心を芸術が刺激します。要する に心を育てる「感性の情報」芸術が社会を優しくする ことができるのです。

このお写真はダイアナ妃です。小林登先生は、国立小 児病院の名誉院長をされておられまして、そこへダイ アナ妃が2回も来られました。その病院では難病、特に かなり重症の子どもたちを、小林先生たちが預かって いらっしゃいました。来院された際に、保育士でもあ るダイアナ妃は、一人一人の重篤な子ども達を抱き上げ、抱きしめ、生きる喜びを授けようとされたと。小林先生は妃の子ども達への優しさに感動し、いまでも忘れ ることはないと、言われます。

アップリカ育児研究会で、私の父が1970年から「言 葉を発せない赤ちゃんが幸せな気持ちになるにはどうすればよいか」という研究を始めました。子どもたちに本当に幸せになっていただきたいと願ってきました。そのために、われわれはいくらでも努力を惜しまないということは、父がいつも思っていたことでございます。