4 意欲や情熱を生む神経回路

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基調講演「脳科学からみた芸術と倫理」

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4 意欲や情熱を生む神経回路

少し赤ちゃんが大きくなってきますと、最初に行うのが手伸ばし行 動です。数ヶ月で出てきます。4~6ヶ月ぐらいです。これをリーチ ングと呼んでおります。リーチングに対して、歌人の俵万智さんはこ のような短歌を詠まれました。『生きるとは、手を伸ばすこと幼子の 指がプーさんの鼻をつかめり』と。すばらしい歌だと思います。実は、 お母様方に協力していただいて、たくさんの赤ちゃんを研究するとい うプログラムを国のプロジェクトで行わせていただいていた時に、お 母様方に何か毎月プレゼントをしたいと思い、俵さんに一首一首、作っ ていただきました。これは、この歌をベースにしまして、プーさんの 鼻という歌集で一般的にも出版されております。赤ちゃんを育ててい らっしゃるお母様は強く感じると思いますが、赤ちゃんの手伸ばし行 動というのはすさまじいです。興味を示したら、ぐっと近づいてきます。手に取れたら、今度は口に入れてなめまわします。これが、まさ に意欲の最初の表れだというふうに考えています。これは、人間とコ ンピュータのとても大きな違いです。プーさんの鼻のように、例えば プーさんの鼻をつかむと、体性感覚というところで、この感触を赤ちゃ んはつかみます。それから、見ていてひしゃげたとか、そういうことも入ってきます。一番大事なのは、赤ちゃんがまず環境に働きかけるということです。働きかけて、初めてこのようなフィードバックが得られるわけです。つまり、赤ちゃんが学んでいるのは、何かを教え込まれることではなくて、環境に対して働きかけて、それをどう自分が享受すればいいのかという、そのプロセス自身を脳が学んでいるということです。ここが大事なところです。

コンピュータは、そうではありません。全てプログラムが作られていて、言ったように行って正しく出力をすると、結果が目的です。全く違います。これは、履き違えると、マニュアル人間ができてしまいます。このような人間というのは、コンピュータとはもちろん今のように基本的に全く違いますが、一番近い種のチンパンジーとも非常に大きく違っています。どこが違っているか。まず、言語です。後でも ※ 申し述べるように、バベルの塔が初日からテーマになっていますが、極めて重要な話です。階層的な文法による言語能力を有すること、こ れがまず第一だと考えられます。複雑な道具を作る、道具を作る道具 まで作ってしまいます。これは、あれっと思われるかもしれませんが、 チンパンジーではまだ積極的な教育はまったく発見されておりません。 慈愛、憎しみなど高次な感情を持つ、そして未来を考えることができ る、というような研究も私は行わせていただいております。

※芸大アーツイン丸ノ内にてプロジェクションマッピングを開催