8 他者を思いやる脳機能と倫理の関係

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基調講演「脳科学からみた芸術と倫理」

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8 他者を思いやる脳機能と倫理の関係

さらに、これから重要なのは、まさに「心の理論」です。「物質の理論」 とどこが違うかというと、例えば野球選手が高いフライを捕るときに、 風があっても練習の結果、ピタッと取ることができます。これは全部 ニュートン力学で説明ができます。ところが、誰か私の前に女性の方 がいらっしゃって、私は非常にそういうところが鈍いので、顔を見ていたら思いがけず、ひっぱたかれてしまったとします。その時、ニュー トン力学では説明できないのです。これが「心の理論」です。相手が どういう風に心が変化してきて、そのような行動に至ったか、これを きちんと相手の立場で考えられないと、「温かい心」というのはあり 得ません。そのような今の心の理論や、相手の立場に立って考えると いう、その脳の働く場所も研究しておりますが、段々解明されつつあります。

そして、紀元前500年頃に文字化されたインドの非常に古い哲学、 ヴェーダ(Veda)の中で、「metta」「karuna」「mudita」「upekkha」 というパーリ語の言葉があります(図7)。この古い哲学には、「他者 のことを考える」ということが一番の基本としてあります。これを仏 教が取り入れられ、漢語に訳されました。「慈悲喜捨」で、これはま た「四無量心」ということで仏教の考え方の基本にもなっています。 自分中心ではなくて、相手の立場に立つ「温かな心」、これこそが倫理・ 道徳の基本であり、人間の尊厳だと私は考えております。そういうこ とで、今日は、本当にさわりのところだけを皆さまにお伝えしたくて お話をさせていただきました。ちょうど時間になりましたので、これ で失礼させていただきたいと思います。ご清聴、どうもありがとうご ざいました。