7 他者との感動の共有

第一回母学会議

2016年10月21日(金)丸ビルホール

マザープロジェクト

おまもりうた:「誕生」

脳科学から見た芸術と倫理

基調講演

小泉英明

パネルディスカッション

「母と子の芸術」

基調講演「脳科学からみた芸術と倫理」

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7 他者との感動の共有

そして、その子どもたちにとって非常に重要なのは意欲です。その 意欲と、表裏一体になっているものが、感動です。感動はもちろん芸 術の最も重要な要素だと思います。この感動についても、最近、脳の 働きを調べることができるようになりました。これは、親友のターナー さんが、ドイツのマックス・プランク研究所からデータを送ってきて くれたものです。例えば、素晴らしい歌曲を聴いて感動した時、脳の どこが動いているかということですが、それが予想外で、島皮質とい うところが強く動くことが分かりました。この島皮質というのは、体 全体からの情報を処理しているところであることが分かりつつありま す。つまり、内臓の感覚や足とか手とか、お腹がむかむかするとか。 心が痛むとか、そういうものを全部統合している場所です。ですから、感動というのは、「身体性」と切っても切り離せません。この事実が 明確な脳のデータからも見えてきました。

ウィリアム・ジェームスという心理学者が100年以上前に、「感動 するから涙が出るのではなくて、涙が出るから感動するんだ」と逆説 的なことを言いました。実際に脳を調べてみると、それは感動するか ら確かに涙は出ます。しかし涙が出るからより感動する。身体性と一 緒になった感情が、フィードバックされて発振します。それが強い感 動の状態だと考えております。

そのようなことが、脳の進化からいろいろ見えてきます。脳は中心 部から外に向かって進化しました(図5)。今、知育でやっていると ころは、この一番外側の大脳新皮質を中心とした教育です。ところが、 先ほどの意欲とかパッション(情熱)とか、これは脳の内側、真ん中 のところが重要です。ある意味で動物的な感情でもあります。進化を きちんと考えて教育を考えていかないと、人間らしい人間が育めません。少し最後のまとめのお話をしたいと思います。これは短い時間では 非常に表現が難しいのですが、今のように進化から考えていくと、芸 術活動には知性的な要素と、感性的な要素があることが分かります。 つまり進化の脳の真ん中の部分、奥の部分、それが両方備わっていな いとすばらしい芸術とはいえません(図6)。脳の左右半球だけの問 題ではないのです。なぜなら、トルストイが『芸術とは何か』で述べ たように、「感動を他者と共有する営み」である側面が色濃いからです。 知性的な要素と感性的な要素に分けて考えると、演奏の途中で両方に ゆれることもあります。知性の方にゆれたり、感性の方にゆれたり、 いろいろなことが見えやすくなります。この話をすると演奏家の方は 喜んでくださいます。