母学トーク お腹の中のノイズ4

お腹の中のノイズ

講演
宮廻正明
(東京藝術大学大学院教授)

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もう一つ、さっき言った滴がる、もうろう、形をずっと捨てていく、色を捨てていく。もうろうとしてくると ころに絵というのは面白さがあるわけです。だから、絵というのは、仕上げると喜ばれません。やっぱり、見る人が1割、2割入り込んでくる隙を与えるわけです。そこに見る人が、ちょろちょろっと自分の原たいけいを加えて自分の絵を仕上げていくわけですよね。そうすると、あたかも自分が全部描いたかのように思って、印象に残って、心の中にすみつくわけです。そういう意味では、もうろうというのが非常に面白い。次をお願いします。

行間の読みという。今度、こういう展覧会をするんですが、これは私の絵なんですが、法華経というのがあります。法華経というのは、ある意味では方便が書いてあるわけです。こうしてこうしてこうするとこういうようになります、こうしてこうしてこうなります。ただ、方便どおりやってもそれはならないということが法華経の真実なわけです。真実はどこにあるかというと、お経とお経の間の余白のところにある。何もこうしても、法華経を読んでもこうはなりませんよと書いてあるのが、ただ一つ、それが願うのは何か。修行する。ひたすら修行する。先ほど小泉先生の字とかそういうあれがありました。ああいうことが修行の中の一つです。物を見て、その最短距離を行こうとするんじゃなくて。つらいことがあったときに、つらさから逃げる方法は一つしかありま せん。それは次の日に休んで休養を取るのではありません。きょう、つらいことがあったら、次の日、つらさか ら逃げる方法はもっとつらいことをする。そうすると、「き のうは楽だったね」と思えるわけです。ところが、つらいことがあって次の日に休むと、「きのうはつらかった」という印象だけが残る。そういう意味では、修行というのはこの行間にありということなんです。次をお願いします。

そして、発想の転換。これは元々はちゃんとした絵だっ たんですが、赤と白に転換しました。そうすると、何と なく芸術っぽく見えるという。この絵自体も、白天逆雲という、空が青くて雲が白い。この絵はそれが反転 していて、ブドウが雲の形をしていて青くて、その後ろに引いてある布が白い。そういう逆転している絵なんです。空の雲と空の色が逆転している絵。それがもう一つ逆転して、これは赤くなった絵なんです。次をお願いします。

最も大事なのは、負の力を使うということです。物を 遠くに飛ばそうと思って、やり投げは前に向かって投げ ます。ところが、弓というのはゼロから反対のほうに引くんです。反対のほうに引いて負の力を使って前へ飛ば す。この負の力こそが、物事を遠くに飛ばす。つまりマイナスの力を使う。負の力がどれだけ使えるか。そして、ここで最も大事なのは、負の力を使ったときに欲張ると、強く引き過ぎます。確かに、速く飛んでいきますけれども、的には当たらない。ということは、力をためるということと力を放すということのバランスをよく取る。バランス感覚をわきまえるということがすごく大事なことじゃないかと思います。そういう意味では、水車も半分 しか水はくんでまいりません。両側から水車に水を入れると、水車は壊れますし、回らない水車ができる。そういう意味では半分は捨てるということ、このことを身に付けると非常に面白い人生になる。

私は今から15年ぐらい前にがんになって死にかけました。末期がんでした。そのときにお医者さんに言われたのは、今の生き方をしていたら絶対にがんは再発しますと言われました。そこでどう生き方を変えたか。嫌なことがあったときに、いかに笑えるか、いかにほほ笑むか。マイナスが先に出てくると、後はプラスしかないわけです。だから、嫌なことがあったときに「しめた」と思える人生になれば、がんは再発しませんと言われました。そこで、考え方を変えて今もう16年生き伸びています。これは、意識を変えるということ。負の力というものをどう自分の喜びに変えていくかということ、これこそが非常に大事なことだと思います。次をお願いします。