仁志田:
もう亡くなられましたが上智大学の学長でバチカンの教育長官であったピタウ大司教は、日本に布教のために来て永住すると決めたのですが、そのきっかけは日本の子どもであったとおっしゃられていす。日本の子どもは挨拶をする、親を尊敬する、そして日本のどんな田舎に行っても子どものための学校がある、この国は素晴らしい、と確信されたのです。30代に日本に来て、日本に帰化され80いくつで亡くなられました。ことほどさように日本の子供と子供を囲む環境は素晴らしかったのです。万葉集にも「わが子羽ぐくめ天の鶴群」という文言があります。鳥は、卵を抱いて温めますが皆さんは子供を抱いて愛情を注いでいます。その時に、その鳥が大きくなってから、自分のためにマンションを作ってくれと考えないように、ただ子どもをひたすら抱きしめるのが日本の子育ての言葉です。英語の「Raise a child」のraise は飼育するとか栽培すると同じ意味です。ドイツ語、フランス語もだいたい似たような言葉です。それに比べれば日本の子どもを育てる「はぐくむ」は、ただひたすら抱きしめるという意味になります。本当に子どもにとっては素晴らしい国でありました。なぜ「でありました。」と過去形で語るかというと、あのマザー・テレサが日本に来てこうおっしゃいました。「豊かさの中で日本の子どもは一番不幸だ」と。これを聞いて小児科医として、本当に腰が抜けるように驚きました。マザー・テレサの言った言葉を受けて、このままでは日本の子どもが駄目になる、何とかしたいということで、子どもに関わりのある仕事をしていた葛西健蔵さん(乳母車製造)・内藤寿七郎先生(小児科)・手塚治虫先生(漫画家)の3人が「子どもにあたたかい心を育む運動」を始められました。それが、今日のこの会に繋がりました。三人は、他人に思いを馳せるあたたかい心は人を幸せにして自分も幸せにするところから、子どもにあたたかい心を育むことは子どもが幸せになる最も大切なことと考えました。さらに葛西健蔵さんは、他人に何かをしてあげることに幸せを感じ、それが生きていることに感動するという「生命感動幸せ学」という考えを提唱していました。その「生命感動幸せ学」の肝こそが相手に思いを馳せる「あたたかい心」なのです。
伊東:
どうもありがとうございました。長年進められてきた運動が、今、時代が求めているものになっているという風に思います。ここにいらっしゃるお母さんたちも、様々な先生方のご意見を聞いて、日ごろの自分たちの育児の参考になる部分、また確認になる部分もあると思います。日本にはそういう文化がありました。そういうことを、是非、確かめていただければと思います。実は先ほど、お話に出たお三方、葛西健蔵さん、手塚治虫先生、内藤寿七郎先生、3人で書かれた詩があります。それを今日は新井晴みさんに朗読していただこうということで、持ってきていただいております。